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『疑うより先に、信じたい』私はそう思う。

「素直な心」

 先日、院代を務める和歌山市吹上の報恩寺に、近くの幼稚園の子供達が「ドングリ拾い」に来てくれた。 およそ百二十名余りの可愛い小さなお客様を迎えて、いつも静かなお寺は、いつになく賑やかになった。
「おはようございます」
「はい、おはよう」
「おじさん、ドングリ、いっぱいひろうからね」
「気を付けて、一杯拾ってね」
「は〜い!」
 実はお寺にとっても、年に一度のこの幼稚園の行事は、とても楽しみな事なのだ。この日の為に毎日境内を掃除する係の人達は、数日前からドングリだけを除けて掃き、汚れたドングリを拾い集めては、わざわざ洗って撒き直したりして、可愛い妖精達の来訪を心待ちにしていたのである。
 市街地では珍しく境内地に山を背負うこのお寺では、ドングリはこの時期、文字通り掃いて捨てる程あるのであるが、敢えてそうしたくなるのは幼い子供達の喜ぶ顔が見たいからに他ならない。
 「よく目をこらして探せば、リスさんに会えるかも知れないよ」
そう言った私の言葉に、子供達は目を輝かせて、
「ほんと?わあいっ、あいたいっ、あいたい!」
と、口々に言って、なんとも素直で愛らしい。
 だが、さても弱った。リスは確かにいるにはいるが、此処に毎日暮らす私でさえ、そう度々お目にかかれるものではないのに、余計な事を言ったものだと、つい口をついて出た言葉に後悔する哀れな大人を尻目に、ドングリ拾いとリス探しに夢中になっている子供達のなんと無邪気な事。
 思えば四年前の或る日の事、当時まだ幼稚園に通っていた娘との散歩の帰り道、いつも立ち寄る大きな鶏小屋の在るお宅で、お爺さんから生みたての卵を戴いた事があった。
 「お嬢ちゃん、大切に温めると、きっとヒヨコがかえるからね」
あの時、そう言われて目を輝かせ、卵を大事に抱えて家に着くなり炬燵に潜り込んだ娘を見て、要らぬ事を言ってくれたものだと思いつつも、純真無垢な我が子のそんな姿を、微笑みながら見たものだったと、あの頃を懐かしく振り返る。
幸い二日目にして、娘はヒヨコの親となることを諦めてくれたが、あの時私は、人にとって大切な何かを、子供から教えられたような気がした。
 「嘘をついたらエンマ様に舌を抜かれるゾ」
  「お前は○○橋の下で拾った子供ダ」
思い起こせば子供の頃、悪さをして両親に叱られ言われ、泣いて謝った懐かしい思い出が、親の身の私にも確かにあった。大人からの、そんな言葉の一つ一つを素直に信じる事の出来た幼い心。もしも、あの時の素直な心の何分の一でもいいから、世の大人達が思い出してくれれば、この日本はもっと素晴らしい社会になるはずなのに−。
 一時間余りして、手に手にビニ−ル袋一杯のドングリを持って、子供達が寺山から下りて来た。
「おじさん、リスさんいたよっ、リスさんいたよっ!」
声をそろえて子供達が言う。
「よかったね、会えて本当によかったね」私は胸をなで下ろす。(リスさん、本当にアリガトウ!)
これはきっと、私の言葉を素直に信じた、百二十人の子供の思いが、天に通じたからだと思うのは、子供じみた私の心故か?否、きっとそうではないだろう。
 自分の生命の中に秘められた無限の可能性を決して疑わない、そんな素直な心が、これから冬支度に入ろうとしているリスをして、求めに応じて出ざるを得ない何か不思議な力が働いたのだ、と私は信じる。
なにしろ、百二十の純真な心、二百四十の清らかな目で探されたのだ。リスも、たまったものではなかっただろう。
 『疑うより先に、信じたい』 私はそう思う。この時代、総ての事柄に対する最大の妨げは、『疑う心』だと思うからだ。文化文明の発達の中で、失われてゆく一番大切なものこそは、人を信じる『素直な心』。まずもって、私は自分自身の中に確かにある、本来の心を信じたい−。
  礼儀正しく挨拶をして子供達は帰って行った。この日の唯一の被害者は食料を大量に持って行かれたリスだったのかも知れないと、つい笑ってしまう。それにしても沢山のドングリを拾ったものである。リスが食糧難に陥らなければよいが。
 可愛い子供達の笑顔、素直な子供達の心に接したひととき、徳川家の御廟をはじめ、この寺に眠る多くの御霊は、どんなにか心慰められた事だろう。
  平成13年11月18日掲載

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このコラムは松本惠昌会長が和歌山新報『しんぽうサロン』に寄稿しているコラムの原稿の原本です。
著作権は松本惠昌会長にありますが、引用は大歓迎です。メールにてご一報ください。

No.2
 生命の重さ、感じますか。
 <不軽の行い>
No.4
 素直な心、忘れていませんか。
 <素直な心>
No.6
 羽ばたいて、みませんか。
 <十五の春に>
No.8
 ステキな毎日、いきていますか。
 <いかされる生命>
No.10
 『しあわせ』の意味、考えたことはありますか。
 <共感の心>
No.12
 生きている実感ありますか。
 <発展途上の人>
No.14
 心の鏡、みがいていますか。
 <手本の重み>
No.16
 世界を見る眼、育ててますか。
 <蜜柑の木>
No.18
 子どもに感謝してますか。
 <親子の絆>
No.20
 『いのち』の大切さ、教えてますか。
 <「いのち」の重さ>
No.22
 感動の涙、流してますか。
 <うれし泣き>
No.24
 悔いのない毎日を送っていますか。
 <今朝の別れ>
No.26
 胸は愛(かな)しくないですか。
 <愛しき一年>
No.28
 死と向かい合ったことがありますかー。
 <永遠の生命>
No.30
 あなたは「いじめ」をどう思いますかー。
 <生命の息吹>
No.32
 苦しいのは、あなただけですかー。
 <前向きに>
No.34
 生命の尊さ、感じてますかー。
 <無常を生きるー>
No.36
 "親心" がわかりますかー。
 <親心(おやごころ)ー>
No.38
 "泣き虫" ですか、"弱虫" ですか。
 <泣き虫と、弱虫ー>
No.40
 病の人に、「佛」をみたことがありますかー。
 < "祈りの言霊(ことだま)" >
No.42
 大切な人に遺したいもの、ありますかー。
 < "妹背(いもせ)ふたゝび・・・。"
No.44
 私たちの務めは何ですかー。
 < "祈りの御山"~「經王堂」の再建着始~
No.46
 未来へ、愛する人へ、引き継ぐものはありますかー。
 < "未来へ、そして愛する人へー"